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心理学ワールド 87号 この人をたずねて 島津明人 氏 鶴見 周摩(中央大学大学院博士後期課程) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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36 Profile─しまず あきひと 2000年,早稲田大学大学院文学研究科 心理学専攻博士後期課程修了。博士 (文学)。公認心理師,臨床心理士。広 島大学で講師,助教授,東京大学で准 教授,北里大学で教授を歴任し,2019 年より現職。専門は精神保健学,産業 保健心理学。著書は『産業保健心理学』 (編著,ナカニシヤ出版)など。 この人をたずねて ■島津先生へのインタビュー ─先生のご研究について教えて ください。  働く人のメンタルヘルスとスト レスについて研究を行っていま す。最近は,共働きのご家族を対 象にワーク・ライフ・バランスと メンタルヘルスの関係性について 縦断的な調査も行っています。ま た,企業という大きな組織にも焦 点を当て,組織全体として労働生 産性の向上に結びつく手法の開発 にも取り組んでいます。 ─働く人に焦点を当てたきっか けを教えてください。  学部時代に受けたメンタルヘル スとストレスの講義がおもしろく 興味を持ったというのと,実際に 社会人として働いてみてストレス の影響について詳しく研究をして みたいと感じたのがきっかけで す。私自身朝10時から翌朝の6時 まで働き,2時間睡眠してはまた 出勤するという社会人生活を送っ ていました(笑)。そのような経 験があったからこそより一層働く 人に焦点を当てた研究がしたいと 思いました。 ─ストレスを考える上で,働く 人個人ではなく企業を対象とする 意義は何でしょうか?  これまでのストレス研究では, 主に働く人個人のストレスをどう 軽減するかといった個人単位での 研究が多かったです。しかし,実 際問題ストレスをなくすためには 職場環境そのものを変える必要が あり,一筋縄で解決する問題では ないことに気づきました。そん なとき,オランダに在外研究で行 く機会があり,そこでワーク・エ ンゲイジメントという言葉に出会 いました。ワーク・エンゲイジメ ントとは仕事に対してポジティブ に取り組むことであり,健康と生 産性の両方を上げるキーワードで す。これが働く人のメンタルヘル スと生産性の向上につながると思 い,当時まだ日本ではなじみがあ りませんでしたが,これを企業に 導入していこうと思いました。実 際に調べていくと,日本人のワー ク・エンゲイジメントは国際的に 比較すると低く,その背景には相 互協調的に行動する日本人の特性 があることがわかりました。  もちろん個人を対象とした研究 を行うことも大切です。ただ,組 織をみることによって浮き彫りに なってくることもあります。組 織をみることは,その企業の制度 をみることにつながり,延いては 世の中の仕組みに目を向けること にもつながります。そのときの国 の政策が企業の在り方に影響する こともあるぶん,組織全体にアプ ローチをかけることも重要です。 ─企業という大きな組織を対象 にする上で苦労されたことはあり ますか?  最初は経営者の理解を得ること 自体が大変でした。それは,社員 のメンタルヘルスが悪化するとど んなデメリットがあるかという メッセージしかこれまで発信され ていなかったからです。ワーク・ エンゲイジメントが企業全体の生 産性の向上につながることを説明 すると,経営者も聞く耳をもって くれました。 ─働く人,特に共働きのご家族 を調査するのは難しそうですが,ど のように可能にしたのでしょうか?  現在取り組むプロジェクトが あります。TWIN study(Tokyo Work-life Interface)というもの で,その始まりは,東京某区の園 長会での講演です。そこで共働き のご家族にアクセスする機会を得 ました。それからは区立と私立の 保育園に行き,共働きのご家族を 対象に夫婦それぞれのワーク・ラ イフ・バランスとメンタルヘルス との関連を検討しました。  このプロジェクトはⅠ,Ⅱ,Ⅲ に分かれています。Ⅰでは夫婦間 のワーク・ライフ・バランスとメ ンタルヘルスを調査し,Ⅱでは夫 婦のワーク・ライフ・バランスと 子どもを含めた家族全体のメンタ ルヘルスとの関連を調べました。 現在はⅢに移行しており,これま 慶應義塾大学総合政策学部 教授

島津明人

インタビュー

鶴見周摩

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37 この人をたずねて でに得た成果をもとに介入研究を 行っています。本人,配偶者,親 子の3方向に向けた健康支援プロ グラムを新たに作成して,全国7 拠点で同時並行しています。調査 に参加していただくご家族はもち ろん,そこに行きつくまでに多く の方の協力があり,人とのつなが りの大切さを改めて感じました。 ─最近では将来を不安視する若 者が多いと思います。  私が学生のときも将来に不安を 抱いていました。就職活動を行い ながら,業績も出す必要があり, 常にプレッシャーを感じていまし た。ただ,モチベーションを持っ て研究に向かい,目の前の仕事に 丁寧に向き合い,それを積み上げ ていけば,少しずつ道は開けてい くと思います。きちんと仕事をし ていれば,誰かが見てくれていま す。まさに,ワーク・エンゲイジ メント,日本語で主体的朗働4 4 と書 いているのですが,自主的に楽し んで打ち込めているのであれば健 康も生産性も向上します。ただ, 研究や仕事をするにしても,仕事 をしていないことへの不安や失敗 へのおそれを低減するために取り 組んでいてはだめです。いわゆる ワーカホリック,仕事中毒と言わ れていますが,私はワーク・エン ゲイジメントの対として牢働4 4 と呼 んでいます。  現在,サテライトオフィスや シェアオフィスの設置,在宅勤務 やワーケーションの導入など「新 しい働き方」に関する検討が進め られています。これらの新しい働 き方は,IoTを活用し,時間や場 所に制限されない柔軟な働き方を 提供する点に特徴がありますが, 「いつでも,どこでも仕事ができ る」環境は,逆に「いつでもどこ でも仕事をしなければいけない」 状況も生み出しています。このよ うな状況は,働く人々を本人の意 思に反して仕事に長時間拘束す る「牢働」環境を作り出し,健康 や生産性に悪影響を与える可能性 があります。だからこそ,「牢働」 環境を改善し,働く人々が,仕事 に対して主体的・効率的に関わる ことができ,かつ活き活きと働け る「朗働」環境を構築することが 大切と思っています。 ─ 最 後 に,若 手 研 究 者 に メ ッ セージをお願いいたします。  今やっている研究をまず楽しむ ことです。つまり,主体的な「朗 働」になるよう心がけてみてくだ さい。例えば自身の研究成果を社 会に発信してみるのはいかがで しょうか。思わぬところから多く の人に自身の研究について意見を もらえます。それが自身のモチ ベーションにもつながります。  また,研究者としての心構えと して,「鳥の視点」と「虫の視点」 を持つことです。鳥の視点は物事 を俯瞰的にみることで,自身の研 究領域での今のホットトピック が何であり,自分の研究が領域内 でどういう位置づけにあるかを常 に把握することです。また,広く 見るだけでなく,虫の視点を持っ て,一つひとつの研究の,意義や 手法を詳細に検討することも欠か してはいけません。そうすれば, 自身の研究の軸を確立することに つながると思います。 ■インタビュアーの自己紹介  インタビューを終えて  島津先生との交流は今回が初め てで,研究分野が違うということ もあり緊張していたのですが,い ざお会いしてみるとその不安や緊 張はなくなりました。笑いを交え てお話ししてくださり,終始こち らのペースに合わせて丁寧にご説 明いただきました。どれも新鮮な お話でとても楽しかったです。  特に,研究で得た成果を世の中 の一般の人にもわかるように発信 していくことも大切,というお話 が印象に残っています。先生は論 文だけでなく,一般書も多数執筆 されており,最終的に社会全体に 役立てることを常に視野に入れて います。私自身論文を書くことに とどまらず,幅広く認知されるよ うSNSなども利用して情報を発 信し続けようと思いました。  現在の研究テーマ  視覚的注意の発達過程につい て,乳児を対象に研究を行ってい ます。成人の研究から多くの知覚, 認知機能がわかってきています が,それらの獲得過程や,獲得以前 の視覚システムはあまり調べられ ていないのが現状です。例えば, 私たち大人は連続的に変化する視 覚環境の中から容易に自身の行動 目標と一致する情報を検出できま すが,生まれてすぐの乳児も同じ ようにできるのでしょうか。研究 成果の一つとして,乳児が100ms という短時間でも複数の風景画像 の中から個人の顔を検出し,同定 できることがわかりました。  また,最近はトップダウンの認 知処理の発達についても興味があ り,これまであまり議論されてこ なかった「意識」の発達過程につ いて明らかにしていきたいと考え ています。 Profile─つるみ しゅうま 中央大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期 課程に在学。日本学術振興会特別研究員 DC1。 専門は知覚心理学,発達心理学。論文は「Rapid identification of the face in infants」( 共 著, Journal of Experimental Child Psychology)など。

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